ウミネコの聖地、焼失からの再建

八戸港から突き出したような岩山が、国内有数のウミネコの繁殖地として国の天然記念物に指定されている蕪島。春になると、島は満開の菜の花で黄色に染まり、飛来した3万5000羽の独特の鳴き声が響き渡る「ウミネコの聖地」だ。
古くからの漁師町である同市鮫や白銀地区にとって、ウミネコは魚の居場所を知らせてくれて、富や幸福をもたらす存在として大切にされてきた。今日、鳥居の階段脇には糞よけの傘が設置されているが、「空からの運が降ってくる」として、糞が命中した人は会運証明書がもらえるほか、蕪島と株にちなんで「株が上がる」「自分の株が上がる」と人気を集めている。
今月5日の早朝、サイレンの音が港町の静寂を切り裂き、蕪島の上で720年の歴史をもつ「蕪嶋神社」は、真っ赤な炎を上げて焼け落ちた。春に約800組のウミネコが愛をはぐくんだ境内は、現在黒く焦げた本殿の柱が無残な姿をさらしたままだ。ウミネコにとっては幸いと言うべきか、一部の越冬組を除いて南方へ旅立った後で、大きな影響は出ていないようではある。
竹落ちた建物の片付けは年内いっぱいに終える予定で、八戸市の小林眞市長は2年後の再建を目指す考えを表明している。鳥居前や高台からの蕪島の眺望で知られる市水産科学館マリエントなどには募金箱が置かれ、お金を入れて手を合わせる参拝者の姿が絶えない。
ただ、本殿再建に向けて懸念がないわけでもない。繁殖シーズンに足の踏み場がないくらいに営巣するウミネコと工事の兼ね合いだ。
ウミネコの子育てには人間側の繊細さが欠かせないからだ。例年、参拝者の通路確保と注意喚起のため、境内に作られた巣を木で囲って少しずつ移動しているが、その作業は細心の注意を払って行われる。ウミネコが生む卵は平均2.1個。「春になってみないと分からないが、環境の変化で減ってしまわないかはやはり心配」と保護監視員の吉田さん。ましてや再建工事が子育てシーズンに重なった場合、ウミネコの産卵に影響が出ないかと懸念するのだ。
再建のスケジュールは今後、神社再建実行委で検討されていく予定だが、来月6日の「納め弁天」や年越し恒例の花火イベントは行われる見通しだという。また、シンボルの神社は焼けてしまったが、蕪島周辺では今、三陸復興国立公園の起点としての整備事業が進んでいるとのこと。来年3月には鳥居前にある休憩所と観光案内所を小高い芝生の丘で包み込むような格好で、ウミネコが子育てできる丘が新しく完成する予定だ。
「地元の人もショックを受けているが、帰ってきて一番ショックを受けるのはウミネコかもしれない。神社があって、ウミネコがいての蕪島だ。新しい丘に巣を作ってくれるかもしれないし、本殿の形がまた見えてくればきっと安心してくれるだろう」と吉田さんや杉本観光協会長は語る。地元の人のためにも、ウミネコのためにも再建工事が順調に進んでくれればいいのだが。